海外の前衛的な映画を観ると、ストーリーを追えなくなってしまうことが時々ある。それは、行間を補うことができないことから来ている。こういうときは、多くの場合二つの種類のスキーマが足りない。まず、それぞれの状況について行間を補うスキーマ。自分たちの文化で当たり前だと思っていることが映画の舞台となっている文化では通じない。つまり、映画の舞台となる文化における日常生活のスキーマがないので、映画で表現されている場面や状況の行間が補えないのだ。
もうひとつの種類のスキーマは、物語の展開に関するスキーマである。私たちは、映画やドラマを見るとき、ここは回想のシーンだ、ここからこのように話が展開するだろう、というようなことを、無意識に予測しながらストーリーを追っている。これも、ドラマや映画、あるいは小説などのストーリーの一般的展開の仕方についての知識、すなわち「物語のスキーマ」である。
一般的な物語のスキーマまったく通じないような前衛的な作品は、それだけでも理解が難しくなる。ましてや、それがまったく異なる文化で、自分の日常生活における様々なスキーマが使えないとなると、日本語字幕があって表面的な字面は理解できても、ストーリー自体が理解できなくなってしまうのである。(『学びとは何か—〈探求人〉になるために』今井むつみ、岩波新書、2016年)
いきなり「スキーマ」という人によっては、聞き慣れない言葉が出てきましたが、スキーマとはこれまでの経験や知識からつくられる、ものごとの理解の枠組みの事です。(スキーマについて「スキーマと言語発達」でも詳しく説明しています。よければ、読んでみてください。)
冒頭の文章を読んで、思い当たる節が私にもあります(皆さんにもあると思います)。
例えば、私の好きな映画で、(少し古いのですが)「ショーシャンクの空に」があります。
主人公が拳銃に弾を込めるシーンから始まるのですが、その後すぐそのあとに、裁判のシーンに切り替わります。(結局、その弾を込めた拳銃で、殺人を犯そうとしたことで、無実の罪に問われて、裁判が行われ、有罪が確定してしまうのですが‥)
「この主人公が持っているものが拳銃」という知識や、「主人公が尋問されている場所が裁判所で、尋問しているのが監察官」という知識がないと、このシーンは理解できません。
当時、「拳銃」はすぐにわかりましたが、裁判のシーンはピンとあまり来なかったことを覚えています。(当時の日本の裁判と違い、アメリカの裁判は陪審制で検察官が聴衆に見える陪審員に話しかけるのです。)そのため、その裁判のシーンの登場人物の発言が言葉として(もちろん、字幕で)理解できても、何のことかなかなかピンとこなかったことを覚えています。
文化スキーマがないと理解できない
文化と聞くと、「外国の文化」や「日本の文化」など大げさに考えてしまいがちなのですが、これはそんなに大きな話だけではありません。
それは例えば、「私が小さい頃に遊びに行っていた遊園地は乗り物に乗る前にお金を払うシステムだったのですが、今のディズニーランドは最初に入場料さえ払えば、あとは払わなくていい」というようなものもここで言う「文化」と言えるかもしれません。
つまり、「暗黙の決まりのようなもの」ぐらいでいいと思います。
「前の職場では、同僚を呼ぶ時にも「~さん」、と上司と同様に丁寧に言わないといけなかったのに、今度の職場では、多くの人があまりそのようなことは気にせずに、「~ちゃん」などとあだ名で呼んだりしている。」というようなことは、多くの人が経験していることです。
映画と同じく言語も行間が大切
このように、「文化」と言われるような前提とする知識が色々なことを理解するための行間を埋める接着剤のような役割を果たしてくれているのです。
言葉を覚える時も、私たちはこのように、自分の中の知識で行間を埋めて、辻褄を合わせながら、学習しているのです。
物語スキーマがないとストーリーを追えない:言語習得でも「展開の予測」が重要

もう一つのスキーマとして、挙げられているのが、一般的展開の仕方についての知識、として「物語のスキーマ」というものです。
私たちが映画などを見ている時、ストーリー展開を予測しながら見ています。例えば、主人公が電車に飛び乗るシーンがあったとして、次に狭い通路を歩くシーンが出てくると、それは電車内の通路だと説明されずともわかります。
言語習得でも同じで、子どもは普段から周りの人たちのやりとりを、見聞きしていて、色々なことが経験として、身体に染みついています。その染みついた経験を素に、他人の言動を予測しているのです。
色々な経験を通して予測する(してしまう)力がつく
他人とのコミュニケーションをたくさん見聞きし、経験する中で見えてくるのは、「会話の流れ」や「質問のパターン」、そして「答えるパターン」です。
ことばをあまり知らない子どもはそのような「会話の展開パターン」を知らないと理解が進まないこともあります。また、コミュニケーションに限ったことでもありません。
「病院」という言葉を例に考えてみましょう。
辞書を引けば、「病気やけがをした人を治療する施設」と説明されています。
けれども、私たちは「病院」と聞いたとき、その定義だけを思い浮かべているわけではありません。
受付で診察券を出し、待合室で待ち、名前を呼ばれて診察室に入り、医者に症状を伝える。必要なら検査をし、薬を受け取る。そうした一連の経験が、私たちの中に「病院」というスキーマを作っています。また、注射を打たれて、痛くて嫌な経験がある人なら、「病院」と聞くだけで、身震いをする人がいるかも知れません。
そのため、「今日は病院に行ってきた」と聞くだけで、語られていない多くのことを自然に想像してしまいます。

ここから、子どもの言語発達についても大切なことが見えてきます。
子どもに言葉を覚えてもらおうと、つい「これはリンゴだよ」「ワンワンだよ」「お水だよ」と、言葉そのものを教えようとしてしまうかも知れません。
もちろん、そのようなことも大切です。しかし、それだけでは十分ではありません。
つまり、言葉を理解するということは、単に「言葉とその意味を覚える」ことではなく、その言葉が使われる場面を経験し、さまざまな知識や体験と結びつけながら、自分の中にスキーマを築いていくことなのです。
子どもが「りんご」を理解するとき、実際のりんごを見たり、触ったり、匂いをかいだり、食べたりする経験があります。そうした経験の積み重ねによって、「りんご」という一つの言葉の周りに、たくさんの知識がつながっていきます。
そして、その知識のネットワークができると、誰かが「りんご」と言っただけで、私たちはその言葉からさまざまなことを思い浮かべられるようになります。
言葉は、単独で存在しているのではありません。
その言葉が使われる場面や、自分が経験してきたこと、他の言葉とのつながりの中に存在しています。
その為、子どもの言葉を育てるためには、「言葉をたくさん聞かせる」ことと同時に、「その言葉が意味を持つ経験」をたくさん作ってあげることが大切なのです。
そこで、冒頭の映画の話に戻ってみましょう。
字幕を読めば一つ一つの言葉の意味は分かる。
それなのに、なぜかストーリーがよく分からない――。
これは、言葉の理解が単語や文の意味を知ることだけではないということです。
私たちは普段、無意識に自分のスキーマを使って、言葉の行間を埋めています。
子どもも同じです。
大人には当たり前のことでも、子どもにはその背景となる経験や知識がまだないために、「言葉は聞こえているのに、意味がよく分からない」ということがあります。
「何回説明しても分かっていない」と感じるとき、もしかすると子どもに足りないのは、説明そのものではなく、その説明を理解するための経験に裏打ちされたスキーマなのかもしれません。
まとめ: 映画理解の困難=言語習得の困難と構造が同じ
冒頭の話は、映画を観る人なら、誰もが経験したことがある話だと思います。
特に、ストーリーが始まったばかりの時に、「これはどこのシーンだろう?」や「この子は誰なんだろう?」などと、その後に続くストーリーを追いながら、必死に話を理解しようとすることは往々にしてあります。
映画の場合は文化スキーマ と 物語スキーマがズレると理解が困難になることがあります。それと同じで言語獲得の場合は経験によって育む生活スキーマ と会話スキーマが重要な鍵を握ることになります。
子どもの学習に必要なこと
子どもが英語の学習に困難さがあるとすれば、「英語の単語がわからない」以前に、 英語圏の文化スキーマと会話スキーマが不足しているからかも知れません。
英語に限らず、学校で集団で先生に何かを習うとき、一人ひとりの「スキーマ」が違うので、同じことを同じ言葉で習っても理解にさが生まれたりするのです。
DWEは「スキーマを育てる教材」
DWE(ディズニー英語システム)は、単に英語の語彙や文法を覚えるのではなく、「英語を本質的に理解できる力」を育てる教材です。
映画を観た際、前衛的な作品が難解に感じられるのは背景知識や物語の文脈が欠けているためであり、子どもが英語を理解できない構造もこれと同じです。意味の理解には、その言語を取り巻く背景(スキーマ)が不可欠となります。DWEは、この理解に必要な「文化スキーマ」と「物語スキーマ」を大量にインプットできるよう設計されています。
文化スキーマとは、英語圏の家庭における会話のテンポ、 遊び方、親子の距離感や感情表現、そしてさらには 生活習慣といった「英語圏の生活の行間」を指します。
一方、物語スキーマとは「質問→答え→リアクション」という会話の流れや、「問題→試行→解決」といったストーリー展開、キャラクターの役割、歌・セリフ・アクションの連動など、英語圏の物語が持つ典型的構造です。
子どもが英語の「行間”」を読み取る力を養い、背景文化ごと自然に、言葉の意味を捉えられるようになることがDWEの神髄なのではないでしょうか。


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