「英語を話せるようになりたい」
そう考えて、英単語を覚えたり、参考書で文法を勉強したり、TOEICなどのテストを受けたりしている方は多いと思います。
英語を話すためには、もちろん単語や文法の知識が必要です。
しかし、言語聴覚士として「ことばを理解する」、「ことばを使えるようにする」ということを考えていると、それだけでは説明できないことに気づきます。
ここでは、日本語はきちんと系統立てて、勉強しなくても、流暢に話せるようになるのに、長い時間勉強して学校のテストで高得点を取れても、英語を話せるようにならない理由を考えていきます。
では、そもそも「ことばを獲得する」とは、どういうことなのでしょうか。

こんにちは。
「ちゃ」と申します。
娘が3人います。
言語聴覚士として働いています。
コミュニケーションについて沢山考えたいです。
子供達には英語を身につけて、世界中の人とコミュニケーションを楽しんでもらいたいです。
そのために、できる事を日々考えています。
少しでも背中を見てもらえるようにと、英検1級等を取得しました。
ことばを使いこなすために必要なこと
ことばを獲得するというのは、単語や文法の知識を覚えることだけではありません。聞いた音を意味のあることばとして理解し、自分の経験や状況と結びつけ、必要なときにそれを使えるようになることです。
私たちは普段、日本語を聞いているとき、一体何をしているのでしょうか。
実は、非常に複雑な情報処理を、ほぼ無意識のうちに、しかも超高速で行っています。
たとえば、誰かが話しているのを聞くとき、
①音を聞き分けて音素を識別する
まず、耳から入ってきた音の流れを細かく聞き分けます。「カ」「キ」「ク」のような音の違いや、英語なら r と l のような、日本語にはない音の違いも聞き分ける必要があります。音の違いを正確に捉えられなければ、その後の単語の認識にもつながりません。
②それがどの単語なのかを判断する
聞き取った音を、自分が知っている「単語」と結びつけます。たとえば「りんご」という音を聞いたときに、単なる音の並びとしてではなく、果物の「りんご」という意味を持つ単語として認識します。知らない単語であれば、この段階で意味を結びつけることが難しくなります。
③助詞や語尾などから文法的な関係を把握する
「犬が猫を追いかけた」と「犬を猫が追いかけた」では、同じ単語が使われていても意味が違います。「が」「を」などの助詞や、動詞の語尾などから、それぞれの単語が文の中でどのような役割を持っているのかを判断します。
④単語の並びから文全体の構造を理解する
単語や文法的な関係を手がかりに、それらを一つのまとまりとして理解します。たとえば、「男の子が公園で犬と遊んでいる」という文なら、「誰が」「どこで」「何と」「何をしているのか」という関係を組み立てます。つまり、単語を一つずつ理解するだけでなく、それらをつなげて「場面」を頭の中に作る作業です。
⑤抑揚や言葉の選択などから、話者の意図や確信度を判断する
同じ内容でも、声の強さや抑揚、間の取り方、使われている言葉によって、話者の意図は変わります。「明日来ます」と「明日来る……と思います」では、話している内容だけでなく、確信の程度も異なります。言葉そのものだけでなく、「この人は何を伝えようとしているのか」を読み取る必要があります。
⑥文字どおりの意味なのか、比喩や皮肉なのかを判断する
言葉をそのまま受け取るのではなく、状況や文脈から本当の意味を考える必要があります。たとえば、暑い日に「今日は冷蔵庫みたいに寒いね」と言われたら、文字どおりの意味ではありません。また、「すごいね」と言いながら実際には皮肉を言っている場合もあります。こうした言葉の裏にある意味を理解するには、これまでの経験や知識、状況についての理解(スキーマ)も必要になります。
⑦話者が全体として何を伝えようとしているのかを理解する
話の流れや、それまでに出てきた情報、話者の状況などを総合して、「結局、この人は何を伝えたいのか」を理解する必要があります。たとえば、「明日は雨みたいだね。駅まで歩くと濡れてしまうな」という話から、単に天気について話しているのではなく、「明日は車で送ってほしい」という意図を読み取ることがあります。このように、言葉として直接表現されていないメッセージまで含めて、話全体の意味を理解することです。
このような複数の処理を、非常に短い時間の中で連続的・相互作用的に行っています。

しかも、私たちは普段、その一つひとつに意識を向けているわけではありません。
「今の音はこの音やな」「この助詞はこういう意味やし……」「この文はこの文法構造になっていて……」などと、いちいち意識して処理していたら、会話についていくことはできません。
通常、①から⑤の処理のかなりの部分が自動化されています。そのため、⑥や⑦のような「相手は何を言おうとしているのか」という、予測したり分析したりするような、より高度な理解に注意を向けることができるのです。
そして、「話す」ときには、伝えたい内容を考え、それに合った言葉を選び、文を組み立て、音として発話します。これも会話のたびに一つひとつ意識的に行っていたら、自然な会話には追いつきません。
ことばを獲得するとは、知識を増やすことではなく、知識と経験を結びつけ、それを実際のコミュニケーションの中で使えるシステムを育てていくことです。
ここに、英語学習を考えるうえで重要なヒントがあります。
英語を「知っている」のに、話せないのはなぜか
英語を勉強している人の中には、単語の意味はたくさん知っている、文法問題も解ける、英文を読めば理解できる、それなのに英会話になると、相手の言葉が聞き取れなかったり、言いたいことがすぐに出てこなかったりする人がいます。
ここまで考えると、「これは、単に『英語の知識が足りない』ということにならないのが分かります。
英語を聞いたときに、単語や文法を一つ一つ意識して処理していると、実際の会話のスピードについていけないからです。
つまり、英語を使えるようになるためには、「英語についての知識を増やすこと」だけではなく、「英語を高速で処理できる状態をつくること」が必要になります。
では、その状態はどうやってつくられるのでしょうか。
母語を身につける子どもは、文法書を読んで文法を覚えているわけではありません。
毎日の生活の中で、周囲の人が話す言葉を大量に聞き、その言葉が使われている場面を見て、人とのやり取りを経験します。
「お茶」という言葉を聞きながら実際にお茶を見たり、飲んだりする。
「おいしいね」と言われながら、食べ物や相手の表情、声の調子などを経験する。
そうした経験が何度も積み重なることで、音と単語、単語と意味、意味と状況などの結びつきが強くなっていきます。
そして、最初は意識的だった処理が、少しずつ自動化されていくのです。
DWE(ディズニー英語システム)のインプットはどうか
このように考えると、DWEの特徴も、単なる「楽しみながら覚える英語の教材」とは違って見えてきます。
DWEでは、英語を単語帳のように一つひとつ切り離して覚えるのではなく、歌や映像、会話、物語などの中で英語に繰り返し触れていきます。
たとえば、映像の中で人物が何かをしながら英語を話していても、子どもは英語の音だけを聞いているわけではありません。
英語の音、言葉、動作、場面、そしてそこから生まれる意味を同時に経験しています。さらに、同じ表現がさまざまな場面で繰り返し登場すれば、「この言葉は、このような状況で使われる」という経験も蓄積されていきます。
これは、「apple=りんご」と単語の意味を暗記することとは少し違います。
「apple」という音を聞いたときに、実際のリンゴのイメージや、それを食べる場面、これまでに聞いた表現などが結びついていれば、英語を聞いた瞬間にイメージが湧き、意味を理解しやすくなるのです。そして、こうした経験を繰り返すことで、音を聞き、単語を認識し、文の構造を把握するといった処理が、少しずつ無意識に処理できるようになっていきます。
ことばの意味がすぐにイメージ(理解)につながることで、会話の中で「この単語は何だろう」「この文法は何だろう」と考えるための意識的な負担が減り、相手の意図や話の内容そのものに、より多くの注意を向けられるようになります。
英語を身につけるために大切なのは、単語や文法を覚えることだけではありません。
音、単語、文法、意味、状況などを結びつけ、それらを高速かつ無意識に処理(イメージ)できる「情報処理システム」をつくっていくことなのです。母語を身につける子どもがやっているのも、こうしたことなのです。
DWEのインプットを考えるときも、「どれだけことば(英単語)を覚えたか」だけを見るのではなく、英語を理解するための情報処理システムが、どのように育っているのかという視点を持つことが大切なのです。
まとめ
「ことばを獲得する」ということは、単語や文法の知識を増やすことだけではありません。
私たちは、日々の経験の中で、音と単語、単語と意味、意味と状況などを少しずつ結びつけていきます。そして、その結びつきが繰り返し強化されることで、ことばを聞いたときに、その意味をすばやく理解したり、伝えたいことを適切なことばに変えて話したりできるようになっていきます。
つまり、ことばを使いこなすためには、知識を持っているだけではなく、その知識を実際のコミュニケーションの中で、できるだけ意識せずに使えるようにすることが重要です。
英語も同じです。
単語や文法を覚えることはもちろん大切ですが、それだけでは、実際の会話で英語を使えるようになるとは限りません。英語の音、単語、文法、意味、そしてその言葉が使われる状況を繰り返し経験し、それらを結びつけていくことが必要です。
DWEのインプットをこのような視点から見ると、歌や映像、会話、物語などを通して、英語の音と意味、そして言葉が使われる場面を繰り返し経験できることに意味があります。
「どれだけ英単語を覚えたか」「どれだけ文法を知っているか」だけではなく、「英語を聞いたときに意味を理解し、英語で伝えたいことを表現するための処理が、どのように育っているのか」ということに目を向けることで、英語学習を「知識を増やすこと」だけではなく、英語を使うための情報処理システムを育てることとして捉えることができます。
ことばを獲得するとは、ことばについての知識を増やすことではなく、経験を通して、ことばを理解し、使うためのシステムそのものを育てていくことなのです。


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