文化が育む「ことばの入り口」(英語と日本語の語彙発達を比較:親の語りかけが鍵?)

ことばの入り口 コミュニケーション

日本の親は、同じ対象に対して育児語と成人語を混在させて複数の語を使う傾向があり、語と指示対象の対応が不明瞭になることで語の定着が遅れると考えられています。一方、英語児は一貫した語で言及されるため、語の定着が速く語彙数も多くなる傾向があります。

ちゃ
ちゃ

こんにちは。

「ちゃ」と申します。

娘が3人います。

言語聴覚士として働いています。

コミュニケーションについて沢山考えたいです。

子供達には英語を身につけて、世界中の人とコミュニケーションを楽しんでもらいたいです。

そのために、できる事を日々考えています。

少しでも背中を見てもらえるようにと、英検1級等を取得しました。

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親の語りかけの違い(日本語 vs 英語)

日本語の親は、子どもの発話を「繰り返す・言い換える・拡張する」傾向が強いです。たとえば、子どもが「ワンワン」と言えば、「そうだね、ワンワンが歩いてるね」と返すように、子の発話を土台に言語を広げていきます。また、犬の事「ワンワン」とだけにせず、時には「かわいい子犬だね」等と言う事もあり、色々な言葉で語りかける傾向があります。

英語圏の親は、より「質問形式」や「指示的」な語りかけが多い傾向があります。たとえば “What’s that?” “Say ‘dog’!” のように、子どもに発話を促すスタイルが目立ちます。

この違いは、文化的な「子ども観」や「学びの捉え方」にも関係していて、日本では「共に育つ・気づきを促す」姿勢が強く、英語圏では「自立を促す・表現を引き出す」姿勢が強いとも言えそうです。

日本語の子どもは、「いないいないばあっ!」や「アッカンベー」等、名詞よりも動詞やオノマトペを含む、状態語を早くから使う傾向があります。これは日本語の語順(SOV)や、親の語りかけの中で動詞が強調されやすいことが影響していると考えられています。

一方、英語の子どもは、名詞中心の語彙からスタートする傾向が強く、これは英語の語順(SVO)や、名詞が文頭に来やすい構造と関係しています。

この様な違いが子供達の語彙獲得に影響を及ぼしているようです。

ある、研究では1〜2歳頃の語彙発達の初期段階において、日本語児の語彙の増加が英語児よりも緩やかであるとしています。

言語習得の速度に違いがある事は、さまざまな要因が影響している可能性がありますが、上記の様な様々な言い回しをする親の語りかけのスタイルも、影響が大きとされています。

「語彙獲得が早いから良い」という結論にたどり着いてしまいそうですが、一口にはそうとも言えなさそうです。

日本の母親は、子どもとの情緒的なつながりを重視する傾向があり、その接し方がわんわん等、育児語の使用を促していると報告されています。育児語は子どもにとって発話しやすく、語彙獲得以外にもポジティブな影響を与えている可能性があります。

たとえば、親子の絆を深めたり、子どもの感情表現を豊かにしたりする効果が考えられます。こうした発話スタイルは、語彙の定着には時間がかかるものの、言語以外の情緒的な発達面で重要な役割を果たしています。

そして、その様な育児語の範疇に入り、代表的な物がモノが転がる様子を表す「コロコロ」等のオノマトペです。

また、その様なオノマトペは、広い意味を含ませる事ができ、同じ言葉でも物が動く状態を表すだけでなく、「コロコロと太った子犬」等という様に、「転がりそう」という意味を込めた状態を表す表現で使う事があります。

この様な言葉の後ろに隠れている意味を捉える(推測する)力は新しい言語やその他の分野の学習をする上で、大変有用な洞察力になってくると言われています。

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オノマトペの教育的機能

音象徴性による理解のしやすさ

オノマトペは「音と意味が直結」しているため、意味を推測しやすく、記憶に残りやすいという特性があります。たとえば「ドキドキ」「ピカピカ」「ズカズカ」などは、音そのものが感覚や情景を喚起します[

語彙の橋渡し

幼児はまずオノマトペで世界を捉え、そこから「大人語」へと移行していきます。たとえば「ワンワン」→「犬」、「ブーブー」→「車」といった具合に、オノマトペが語彙獲得の足場になったりします。

感情や身体表現の促進

オノマトペは、感情や身体の動きを表現するのにも適していて、非言語的な感覚を言語化する第一歩として機能します。たとえば「イライラ」「ワクワク」「ゴロゴロ」など、内面の状態を表す語が豊富です。

楽しさ

オノマトペは感覚遊びの様な性質もあり、人それぞれによって、作り方や捉え方が違ってきます。

今でも印象深く残っているのは、30年以上前の事ですが、中高生の時に読んでいた荒木飛呂彦先生の「ジョジョの奇妙な冒険」という漫画です。その中には「ドギューーン」等と独特の文字で表したオノマトペの様なバラエティーに富んだ効果音が沢山描かれていました。

当時は友達とそれを真似た言葉遊びのような事をしながら、じゃれあっていました。

英語のオノマトペ

ちなみに英語にもオノマトペはあります。

くしゃみの音を日本では「ハックション」と言い、英語では「achoo」と言います。そして、蜂が飛んでいる音「ブンブン」は「buzz」、爆発する「ドカーン」は英語で「bang」です。

また、英語では日本語訳すると動詞を修飾するオノマトペが動詞と一体化している事があります。

例えば、「歩く」を意味する単語は沢山あります。

いろいろな「歩く」

英語表現ニュアンス日本語のイメージ
walk一般的な「歩く」歩く
strollのんびり歩く散歩する
stride大股で力強く歩く闊歩する
march規律正しく歩く行進する
tiptoeつま先でそっと歩く忍び足で歩く
amble気ままにぶらぶら歩くぶらぶら歩く
saunter自信ありげにゆったり歩くゆったり歩く
trudge疲れて重い足取りで歩くとぼとぼ歩く
plodゆっくり重く歩くのろのろ歩く
hike長距離を歩く(特に自然の中)ハイキングする
wander目的なく歩き回るウロウロする
pace行ったり来たり歩く行ったり来たりする
swagger威張って歩くズカズカ歩く

日本語では「ぶらぶら」や「とぼとぼ」等オノマトペを使う事で、歩いている様子が想像しやすくなっているのですが、英語ではそれらをひとまとめにして、1つの単語で言い表します。

まとめ:ことばの発達に見る日本語と英語の違い

日本語と英語では、親の語りかけのスタイルや言語構造の違いが、子どもの語彙獲得や言語発達に大きく影響していることがわかります。

日本語の親は、子どもの発話を繰り返したり言い換えたりしながら、情緒的なつながりを重視した語りかけを行います。育児語やオノマトペを多用し、感覚や状態を豊かに表現することで、言語以外の発達も支えています。

一方、英語圏の親は、質問や指示を通じて子どもの発話を促し、名詞中心の語彙を一貫して使う傾向があります。これにより語彙の定着が早く、語彙数も多くなる傾向があります。

また、日本語では動詞やオノマトペが早期に使われるのに対し、英語では名詞が中心となるなど、語順(SOV vs SVO)の違いも語彙発達に影響しています。

オノマトペは特に教育的な機能が高く、音象徴性によって理解しやすく、語彙の橋渡しや感情表現の促進にも役立ちます。日本語の「コロコロ」や「ズカズカ」などは、動きや感情を直感的に伝える力を持ち、子どもの言語の入り口として重要な役割を果たしています。

この様な事が背景にあり、情緒的な側面も考慮に入れている事から、日本語児は語と対象の対応力が高く、新しい言葉を柔軟に把握する力を育んでいる事になります。つまり、語彙が少ない反面、言葉を覚える為の柔軟な思考回路を育んでいる事になるといえます。

実際に、動詞を含めた言葉(文章)の学習を日本語児と英語児で比べたところ、日本語児の方が、素早く新規に学んだ言葉に対応できたという報告もあります。

ことばは色々な側面があり、語彙の定着速度だけで言語発達を評価するのではなく、文化的背景や情緒的なつながりも含めて、多面的に捉えることが大切だと言えそうです。

 子どもが言語を学ぶということは、単に単語の音とその単語が表す対象の対応づけを覚えるということではない。言語を成り立たせているさまざまな仕組みを自分で発見し、発見したことを使って自分で意味を作っていく方法を覚えることである。
 子どもが最初に発見しなければならないのは、自分がこれから覚えて使っていく言語には意味があること、言語の意味の基本単位は単語であること、単語は音の組み合わせから成り立っていること、組み合わせには規則(文法)があり、組み合わせを変えると違う意味を作ることができることなどなどである。子供はこんなにたくさんのことを、一つひとつ、自分の力で学んでいかなければならないのだ。
                                       言語の本質より

参考資料

  1. 幼児が発するオノマトペに関する研究の動向と展望 – J-STAGE
  2. ことばの発達,日本語と英語で何が違う? – NTT技術ジャーナル

参考図書 『言語の本質』 今井むつみ 著(中公新書)

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