
言語聴覚士という立場から、英語学習と向き合ってみて、感じた事に「大人が新たに言葉を学習する過程と子供が母語を習得する過程は違う」という事があります。
大人や、すでに母国語として日本語を身につけた人にとって英語をはじめとする語学学習に必要な事をまとめます。
「そんな事は当たり前」と思う方も多いと思いますが、そこを切り分けられずに、「子供ができるのだから私も同じようにして言葉を学習する」という事で、文法などの基礎的な事をそこそこにして、基礎を固めずに英語学習を進めてしまうと逆に非効率になる事があります。また、その様な考えの延長線上で、英語を英語のまま考える事ができる様にと、英和辞典を使わずに、英英辞典だけをを使って、勉強をする方が良いという意見もあります。
しかし、色々な概念を、日本語を使って頭の中で整理し、理解をしてきた人にとって、また1から英語の発達の道筋をたどり直すとなると、非効率で、時間がかかります。特に、四六時中英語が周りで話されている環境でない限り、1日の中のほんの少しの割合の短い勉強時間だけその様にしても、時間がかかりすぎるのは明白です。
その様に無理に大人が子供の真似をしてしまったり、子供に対して大人が学習する様な教材を与えてしまったりする事があると思います。
では、第二言語の語学学習者に必要なのは何でしょうか?
それは「目標設定」と「継続」です。
目標設定
最初にすべきことは、目標をきちんと定める事が重要です。
私達は生きていく中で、色々やりたい事が出てきます。その為に、目標を立て、それに向けて行動する事は、当たり前の事だと誰もが当然の事の様に思っています。
「プロ野球選手になりたい」や「歌手になりたい」、そして「お医者さんになりたい」など、人が興味を持ち目標や夢を持つ事の分野は色々ですが、目標とするものが明確になったら、その為に、あらゆる手を使って、その目標に近づく努力をします。
目標を明確にしないと、漠然と身体を動かしていてもプロ野球選手になれないどころか、少年野球チームでもレギュラーとして試合に出る事ができないかも知れません。
何事にも、先ずは目標を明確にして、それぞれでやり方は違うけれども、その為に歩むべき道と歩み方をそれぞれが模索して前に進んでいかなくてはいけません。
それは、英語学習にも当然あてはまり、「どれぐらいのレベルの英語力を身につけたいのか?」という目標の向こうにある、「何のために英語を学習するのか?」や「英語を習得して何がしたいのか?」を明確にすべきです。
「聞き流すだけの勉強方」や「フレーズを覚える勉強法」など、世間には数多の「簡単な英語習得方法」を謳った英語勉強法がありますが、「その勉強方法はどの様なゴールへ導いてくれるのか」という事を先ず、考えるべきです。
反面、赤ちゃんは確たる目標を意識的に持ち、言葉を学習し続けているわけではありません。周囲の音や話される言葉を聴き取り、意味やルールを理解しようと自然にしています。
それは、本能的なコミュニケーションの欲求と外界と自己をつなぐ適応行動で、生きるために必要な部分に支えられています。そのため、周りで発せられる言葉や環境音に四六時中注意を払い、赤ちゃんなりに試行錯誤しています。
日本語を話す事ができる様になってしまった私達はその様な必要性が無いので、四六時中英語学習に注意を払う事ができません。その為、赤ちゃんの様には新しい言葉を覚える事ができませんので、どんな形であれ、目標を持つ必要があります。

継続
以前、日本人の知人の前で、外国の方と英語で会話した後、「どうやって英語を話せるようになったんですか?」という質問を受けました。
その時まで、自身でその様な事を考えた事が無かったのですが、咄嗟に「英語の勉強を続けているからです。今も続けています。」と答えました。
咄嗟に出た回答でしたが、後から振り返っても、あれ以上の回答は無いと思っています。
日本語を使い、毎日他人と意思の疎通をしていますが、伝えたい事の100%を常に伝えれているわけではないのは誰もが実感しているところだと思います。
また、私をはじめほとんどの日本人も「完璧な日本語」を話しているわけではありません。
それでも、「どういう風に言えば伝わるかな?」等と日々試行錯誤する事は日常によくありますし、クイズ番組を見て、改めて難しい日本語の意味や文化を理解する事もよくあります。
日本人であっても、日々日本語の勉強を継続していると言えます。
「そんな根本的で本質的な事を聴いているのではない」という言葉が聞こえてきそうですが、実際にアメリカ人やイギリス人など英語を公用語とする人達であっても、日々その様に言葉を継続して学習しています。
その様な事を頭の片隅に置きつつ、「ゴールの見えないレース」の様に気が遠くなるのを抑えて、のんびりと継続する必要がありいます。
この様に書くと、最初に書いた、「目標設定」をする事の大切さと矛盾する事になりそうですが、そうではなく「目標設定」と「継続」は車の両輪の様なものです。

モチベーション維持
ゴールを目指すのは大切なのですが、それを達成する為に必要なのは、継続するしかないという事を書いてきました。そして継続するのに必要なのはモチベーションです。
「三日坊主」という言葉があるように、三日間で何かをする事に飽きる人は多いと思います。飽きる事は多くの人にとって良くあることですが、それを「仕方がない」と済ませてしまえば、何も上達できません。
行動し続けられないのは、最初に抱いた「~できる様になりたい」等の感情を忘れたためと言っていいでしょう。その為にも、目標を明確に言語化すると、最初に抱いた感情を思い出しやすくなり、モチベーションが維持しやすく、継続した行動がとりやすいのです。

学習の方向性の維持
また、漠然と「英語ができるようになりたい」と思うだけでなく、「英検〇級に合格したい」等という目標を掲げる事で、「何を勉強しなければならないか」という的を絞れます。
単に「英語ができる様になりたい」だけだと、「ある日は単語帳で単語を覚えて、ある日はリスニングの練習をするために、洋画を見て、そしてある日は、英会話の練習をしてみる」等と、まとまりのない勉強になってしまい、積み上がりにくい状態が続いてしまいます。
明確な目標を持つことによって方向性をきちんと定め、継続した歩みを進める事ができます。
達成感
継続するという事が分かっていても、道のりが長すぎると、「あとどれぐらいの道のりを歩まないといけないのか?」と気が遠くなり、途中で嫌気がさしてくると思います。
長い旅の道のりでも、現在地を知る事で、「あと2時間で目的地に着く」や「ここまで来れば、もう少し」、「やっとここまで来た」など、見通しが立てば、安心する事があります。
英語の勉強も、短期目標を立て、それを達成する事で、少しずつでも前に進んでいる事を実感する事が次へのステップのモチベーションになります。
片手間でできるか
英語の学習も他の勉強やスポーツ等と同じです。
速く走るためにフォームを習得したり、走りやすい靴を履いてもゴールの無いマラソンであれば、真剣に走り続ける事は難しいですし、途中で止めてしまうのは目に見えています。英語学習は他の分野の勉強やスポーツと同じで、奥が深く、1つひとつ習得するために時間を要します。
まさか、簡単に、メソッドを聞き流しながら、イメージトレーニングだけでプロ野球選手を目指せるなんて思う人は居ないでしょう。医師になるためにはそのための大学に入ったり、国家試験に合格しなければいけなりません。
しかし、英語に関しては、「一日10分間、聞き流すだけで‥」や「フレーズを覚えるだけで‥」という様なキャッチーなうたい文句で人をひきつけ、漠然と英語学習を促している教材がそこら中で見かけます。
それらの勉強法が全く無意味だとは思いません。ただ、漠然と、目標も持たずに、その様な勉強の仕方をして、どこにたどり着くかは、あまりはっきりしないでしょう。

まとめ
よく、「英語を勉強する時は、日本語を介さず、英語のまま理解した方が良い」という事で、英語の単語をあまり知らない時から英英辞典を使って、勉強したり、させたりする事があります。
しかしそれは、半分正解で半分不正解です。
例えば、日本語で「私はその服を着ています。」というと、「その服を身につけている(に着替えている)最中です。」という意味と、「その服を服を着用しています。」という意味の2つに捉える事ができます。
英語の場合では、「私はその服を身につけている(に着替えている)最中です。」であれば、「I am putting on the cloth」となり、「私はその服を服を着用しています。」は「I am wearing the cloth.」となります。

英語で着ている状態を表す時は「wear」を使い、来ている動作を表す時は、「put on」を使います。
中途半端に「wear」という単語を知っていると、「私は服を着ている最中です(だから入ってこないで)!」と言いたい時に、「I am wearing my clothes. 」と言ってしまい、「服を着ています(だから入ってきても大丈夫ですよ)。」という風に受け取られかねない言い回しになったりします。
英語のみで理解していると、この辺を理解する(覚える)のに混乱は生じませんが、いちいち日本語から考える癖がついていると、この様になってしまいます。
この様な理由もあり、英語を英語で理解し、学習する大切さは分かります。
しかし、全く英語が分からないのに、はじめから英語だけで理解しようと勉強を進めても、「よくわからない?」という時間が長すぎて、普通の人であれば、嫌気を指して、その学習をやめてしまいます。
英語を機能的に、そして効率的に学習する事は大切ですが、それ以上に大切な事は継続する事です。その為にも、目標を立てて、学習する様にしてください。
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