約22年前に脳出血を起こして以来、左半身麻痺の身体障害者として生活しています。その後、学校へ行き直しはしましたが、病院と障害者施設で言語聴覚士として、体調も大きく崩さず、勤務し続ける事ができています。
ある時、友人が「私の親戚も同じ様に20代で脳出血を起こし、それ以来はずっと自宅療養をしていて、時々、けいれん発作を起こしているから、働くなんて考えられない。ましてや、家庭を持つ事なんて、尚更考えられない。社会復帰し続けるために、特別な事したの?」と尋ねてきました。
その時は、「手術が上手くいったからかな?」や「中村天風氏の本を何回も読んで、気持ちをできるだけ前向きにしてこれたからかな?」等と言って、結局「運が良かったんやな」というなんの参考にもならない答えで終わってしまいました。
無事に社会復帰できている1つの理由
それから、事ある毎にその質問に対しての答えを考えていましたが、1つの答えとして「好き嫌い無く、いろんな物をしっかり沢山食べてきたから」というものにたどり着きました。この回答は今まで沢山の同じような質問をする人を納得させる事ができています。飲み会やBBQ等で出されたものや、残ったものを「パクパク」と平らげている時に、「好き嫌いとか無いんか?」と聞かれ、「全くない。全くないから何でも沢山食べる。そのおかげで、障害を負っても、身体を壊さずに働き続け、社会生活を送る事ができていると思う。」と回答すると、それを聞いた全員が納得してくれています。
倒れた後からすぐに、しっかり出された物を食べれていたかというと、そういう訳ではありませんでした。術後(の約1ヶ月後)に意識がはっきりしたすぐ後は、身体が全く言う事を聞かず、障害を負ったショックで、食欲は全くありませんでした。けいれん発作を止めるエクセグランという薬を食後に飲むために、出された食事を少しだけ、味わいもせず口に入れている状態が続いていました。その様な状態を見た友人の一人が、「お前はアホか!薬より食べ物方が大事やないけ!食べ物をちゃんと食わんと元気になるはずの身体も元気にならんわ!ホンマに良くなりたいと思うのやったら、メシを食え!」と言いました。
それを聞いた時、「俺の気持ちがお前に分かってたまるか!お前もこんな身体になったら、食欲が失せるに決まってる。」と思いました。そんな反発を心に抱いた後に、「よし、なんでも沢山食べてやる!沢山食べて、治らなかったら、お前が無責任に言った通りの事をやったけど、治らなかった!」と言いかえしてやろうと思いました。
それから、なんでも沢山しっかり食べるようになりました。
好き嫌いがダメな理由
入院中から少しずつ、食べる事で元気を取り戻せていた事を実感できていた私は、私の執刀医に脳の回復に一番有効な食べ物を教えて欲しいと尋ねました。すると、「そういうのが『猿の浅知恵』って言うのやと思う。人間の身体なんてまだまだ分かってないことだらけや。どんな栄養が身体のどこにどれぐらい良いかなんて、まだまだ分かってへん。個人差もあるから、なんでもしっかり食べなあかんのや。」と言われました。その言葉通り、今でも目の前にあるものは選り好みせず、なんでもしっかり食べるようにしています。
この他、社会復帰する前にボランティアに行っていた精神障害者のデイケア施設でも同じような事を実感する事がありました。
そのデイケア施設は、毎日地域で日常生活を送っているうつ病や統合失調症を抱えた方が通ってこられていました。そこでの昼食は、それぞれが持参した物を食べていたのですが、ほとんどがコンビニのおにぎりやカップラーメンで、少食の方が多くおられました。そこでは、好き嫌いな物が無く、色々な物をしっかり食べている人をあまり見ませんでした。「しっかり食べて栄養を取らないから、心の病に罹る」と断言する事はしませんが、「そこに因果関係が無い」とも言い切れないと思っています。正直、「モリモリご飯をたくさん食べる人に、心の病に罹っていそうな人はいなさそう」という気がしています。
身体は心とともに凄いバランスで保たれていて、少しでもどこかを痛めたりすると、全体に波及する事が多いと思います。
例えば、足を痛めてそのままにしておくと、それをかばうような歩き方を続けていたために、腰が痛くなる事があります。この様な事は身体だけでなく、バランスを崩した精神状態が身体に悪い影響を与える事は誰もが内心は分かっている事だと思います。(悩みがあるせいで「円形脱毛症になる」や「不眠症になる」等)これとは逆に、身体を壊した事で、精神疾患を患ってしまう事もあります。
よく「人間は心が川上で身体が川下」と思っていましたが、今は「心身は車の両輪の様な存在」だと思っています。心が病むと身体を崩す事がありますし、身体が何かの病になる事で心が崩れる事も多くあります。
身体だけでなく心も健康に保つ事にも、「栄養」は必要不可欠です。しかもそれは、「バランスの取れた栄養」が大切だと思います。執刀医が言ってくれたように、色々な物をしっかり食べる事が大切だと思います。
美味しく食べる事
なんでも食べる事に加えてもう1つ、大切だと実感していることがあります。それは「美味しく(美味しいと思い)食べる」事です。
「嫌々にそして無理矢理に食べるより『美味しい』と思って食べる方が、きちんと身体に栄養になる」
これは母親が言っていた事です。実際、言語聴覚士として普段から嚥下障害がある人と関わっていると、「好きなものだと嚥下障害がある人も上手く嚥下できることがある」と思う事がよくあります。「好きこそものの上手なれ」ですね。そして、必要な栄養を身体にしっかりと吸収させる事も同じで、「美味しい」と思って摂った栄養はしっかり体に吸収されるとも思います。
過ぎたるは猶及ばざるが如し
何でもしっかり食べる事は大切ですが、食べ過ぎる事はもちろん良くない事も。「美味しく食べるために」と好きなものばかり食べる事は色々な弊害も起こりえます。
脂っこい物の食べ過ぎは、肥満や高脂血症のリスクになりますし、塩分の摂りすぎは高血圧の原因になると言われています。そして、糖分は糖尿病や動脈硬化を起こす因子になる事は有名ですが、それぞれがある程度の量の摂取は体に必要です。また、私の知人に、海老が好き過ぎて、そればかり食べてしまい、甲殻類アレルギーになってしまった人がいます。結局は何にでも適量があるという事です。
その適量とは人それぞれで、個人間に差があります。そのため、しっかりと栄養を取る事は最優先事項として、過剰摂取にならない様に気をつけるべきだと思います。
この他、人間の身体の免疫は7割が腸に生息しているそうです。この点からも、しっかり栄養を摂って、腸を元気にする事が健康を保つ秘訣だと言えます。
現在、50歳を過ぎ、成人病が気になる年齢ではありますが、下手に栄養の事は考えず、偏りがないように、何でもしっかりと摂るようにしています。20年以上前に友人に言われた「メシを食え!」は私の一生の座右の銘になっています。これは、家族等の私の周りの人にも伝えておきたい言葉です。
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