去年(2024年)1年間で日本に訪れた外国人は3500万人を超えました。訪日外国人が増えている事はもちろん、ビジネスでもグローバル化は明白で、アメリカのトランプ大統領の政策に一喜一憂するのはアメリカの国民だけではありません。そして、インターネット上のコンテンツでは、英語は最も広く使用されていて、上位1,000万サイトの約60.4%を英語のサイトが占めています。一方、日本語のサイトは上位1,000万サイトの割合が約2.1%と少なく、情報量では英語に大きく劣ると言えます。日本国内でも国際化が進むなか、小学校で英語が必須科目になりました。子供には単に教科としての英語力だけではなく、世界に通じるコミュニケーション力を身につけてほしいと思っている親御さんは多いと思います。
そんな中、英語の教育を幼少期から取り入れている家庭は私の周りでも沢山います。
実際に、幼児期から英語に親しむ子供の習得スピードには驚くべきものがあります。ただし英語の取り入れ方や保護者の携わり方によって、効果はかなり異なってくるようです。
早期英語教育のメリットとデメリット、を整理して、さらにそのデメリットをカバーしながらどのように英語を取り入れると効果的なのかを考えます。

こんにちは。
「ちゃ」と申します。
娘が3人います。
言語聴覚士として働いています。
コミュニケーションについて沢山考えたいです。
子供達には英語を身につけて、世界中の人とコミュニケーションを楽しんでもらいたいです。
そのために、できる事を日々考えています。
少しでも背中を見てもらえるようにと、英検1級等を取得しました。
幼児英語教育のメリット
幼児期から子供に英語を学ばせることによって得られるメリットは多くあります。ここでは大きく4つのメリットを紹介します。
ひとつずつ詳しく見てみます。
英語を英語のまま理解できる

日本語と英語は単語や文法等が全く違います。
そのため、ある程度の年齢を超えてから英語を学び始めると、リスニングやリーディングの時に英語を日本語に訳して理解し、ライティングやスピーキングのときには日本語を英語に訳して表出する、というプロセスを辿ってしまう弊害が起こりえます。
英語では、「S(主語)V(動詞)O目的語)」や「S(主語)V(動詞)C(補語)」等、主語のすぐ後に動詞がきますが、日本語では動詞は文の後ろの方に来る事が多いです。
この様な語順の違いが、特に最初のうちは混乱やタイムラグの原因になります。
また、「冠詞」や「可算・不可算名詞」等日本語には無い文法が英語にはあります。
文法なので、もちろんそこには理屈がありますが、ネイティブの人達は、例えば「あ、これは少し前に話題に出てきた名詞だから『the』が付くな」等といちいち考えて、冠詞を使っていません。
そこには、ネイティブの人達の感覚的な尺度の様なものがあり、その尺度(文法)に沿った冠詞等の日本語には存在しない文法を使い分けているのです。
幼少期から英語を学ぶと、日本語を介する事なく、英語を英語のまま理解し、使う事ができる「英語脳」が発達します。
その為、いちいち日本語に置き換える事をせず、耳から入った単語や文をそのままインプットするため、この様な感覚に似た文法を含んだ英語を早く習得することができます。
リスニング力の向上につながる
次に、早期英語教育で英語のリスニング力が良くなるということが挙げられます。
例えば、日本語を母語としてある年齢まで達した人には、日本語にはない音である “R” と “L” や “TH” の識別が容易にできないと言われています。
ある調査結果では、1歳の乳児は4歳の幼児や成人と比較してあらゆる言語の音声識別能力に長けており、その能力は次第に低下していくことが判明しています。(Cross-language speech perception: Evidence for perceptual reorganization during the first year of life (Janet F.WerkerRichard C.Tees))
また、認知科学者の今井むつみさんは著書「英語独習法(岩波新書)」の中で、
「世界中の赤ちゃんは、生まれてすぐは、すべての言語で区別される音をもれなく区別する事ができる(聴覚障害などがない限り)。そこから、自分の母語の音素を探索し、音素のレパートリーを作っていく。英語の場合にはr,lは異なる音素であり、この二つの音の聴き分けができないと、race/lace, rice/liceなどの区別がつかない。だから英語を母語とする赤ちゃんは、(もともと区別できていた)rとlの区別を保持し、さらに敏感に注意を向ける事を学習する。では日本の赤ちゃんはどうだろうか?日本語にはrとlの区別はない。母語で必要のない音の区別をし続けると、情報処理のソース(認知的資源)は限られているので、その分、他の必要な情報に注意を向けることができにくくなる。つまり、母語で必要とされる音の区別は残しつつ、必要のない音を区別する能力(音への注意)は捨ててしまったほうが、母語を学習するには有利だ。だから赤ちゃんは1歳ぐらいまでに、不必要な音の区別には注意を向けなくなる。」
としています。
つまり、「英語耳が発達する」というよりも、「能力が母語(日本語)だけに偏らないようになる」というような事のようです。
視野が広がり、多様性を受け入れられる

(The most spoken languages worldwide in 2025)
世界での英語話者は約15億人にものぼると言われています。
以前、「言語の違いが世界の見方を変える:学びの可能性を探る」で紹介したウォーフ仮説の「人は、生まれたときから使っている言葉によって、世界の見え方が変わる。」とい考え方を紹介しました。
それはつまり、空の色や時間の感じ方、物の分け方も、話す言葉によって違ってくるということです。
例えば、「雪」を表す言葉は英語では「snow」ですが、ある雪の多い国では雪の種類によって何十個も言葉があるそうです。つまり、どんなふうに世界を見ているかは、話す言葉によって変わるという事です。
世界はもともとバラバラな情報が散らばっている状態ですが、私たちは言葉を使ってそれを「意味のある形」にまとめています。
日本語であっても、「椅子(イス)」は、食卓にある椅子もあれば学校の授業の時に使う椅子もあります。その学校の椅子も、小学校と大学では全く形が違ってきます。学校によっても違いがあります。
この他、車の座席も人によっては、「椅子」と言ったり「シート」と言ったりします。同じ日本でも、地域や家族、そして個人によっても呼び方に違いがあります。
そんな言葉による物事のまとめ方は、みんなが使っている言葉のルールにそってある程度決まっていて、同じ言葉を話す人同士は、似たような世界の見方をするというのです。
この様に、あらゆる言語にはすべて、背景に文化等に裏付けられたものがあります。幼児期から英語を学ぶ事は、単に勉強として英語を習得するだけでなく、海外の文化や生活習慣、考え方など多くの異文化に触れる機会が増えるという事です。
英語を学習する事によって、英語圏の人や英語話者との国際交流経験が増え、見える世界が大きく広がります。
つまり、英語を学ぶことで、世界のいろんな人の考え方や文化を知ることができるようになるという事です。
私達にとって、当たり前の様に思えますが、日本は、ほとんどの人が同じ言葉や習慣を持っている、世界でも珍しい国です。
しかし、英語を話す人たちは、肌の色や宗教、住んでいる場所などがバラバラです。
小さいころから英語を学んで、外国の人と交流することで、いろんな違いを自然に受け入れられるようになります。
これからの世界では、そうした「視野を広げ、違いを分かろうとする力」がとても大切になり、英語学習は英語の習得以外の事に対しても、積極的に学ぶ姿勢を後押ししてくれます。

職業選択の幅が広がる
最後に、将来の仕事に繋がる事は誰もが思う大きなメリットです。
グローバル化する社会の中で働く事を考えると、英語を使える事が職業の選択肢が増えるという事は明白です。
コロナの影響で家から働く人が増えたり、インターネットなどで世界とつながる機会が多くなったことで、これからも英語はますます大切になっていきます。
小さいころから英語にふれることで、「英語ってむずかしそう…」という気持ちが無くなり、海外に行って勉強したり、外国で働くことにも興味がわいてきます。
私のいる言語聴覚士の世界でも、国際学会が毎年世界のどこかで開かれていて、新しい知見などは、その様な機会か、英語での文献から得られることが多いです。
学術面でもビジネスでも英語でのコミュニケーションがスタンダードになっているのは、多くの人が感じている事です。
ある会社の調べでは、英語で仕事ができる人は、そうでない人よりもお給料が高いことがわかっていて、特に40代以上では平均より1.3倍も高いというデータもあります。
英語は世界中で使われている言葉です。話せるようになると、仕事の選び方も広がり、将来のチャンスもぐんと増えるのは間違いありません。
幼児英語教育のデメリット
早期英語教育には、賛否両論あり、反対の意見があることも事実です。
メリットも多くある早期英語教育ですが、デメリットにはどのようなものがあるのでしょうか?大きく3つに分けて解説します。
こちらも詳しく見ていきましょう。
日本語での論理的思考に影響する
早期英語教育の反対意見としてよくあるのが、母国語である日本語への影響です。バイリンガルを目指すのであれば、ある程度日本語で論理的思考ができるようになる小学校高学年から始めた方がよいという意見もあります。
私の学生時代に、日本人の両親を持ち、アメリカで幼少期から育った方と、知り合う機会がありました。
彼は聡明で、勉学にも真面目に取り組まれていた方で、一生懸命に「forensic science(法科学)」を勉強されていました。彼は警察の科学捜査に興味を持ち、科学捜査官を目指していました。
英語も日本語もいわゆるペラペラで、学校の成績もよかった彼ですが、時々「ん?彼は天然?」と思える場面がありました。
友達同士の会話でも、少し話題とズレた発言をしたり、他人が笑っていないところで笑ったりして、実際彼は、「天然キャラで」みんなにいじられている事がよくありました。
しかし、日本人家庭で育ち、日本の学校に通っているならば、さほど心配する必要はないと言えます。
英語に興味がない場合、嫌悪感を与えてしまう
他の習い事と同じように、子供本人にやる気がないのに無理に押し付けてしまうと、英語に対して嫌悪感を持たせてしまう可能性があります。
これは、私にとっても最大の課題です。
このサイトでも扱っている「ワールドファミリー(DWE)」という教材を使って、子供達に小さい頃からそのDVD等を見てもらう様にしていたのですが、段々と飽きてしまい、他のテレビ番組等に興味が移り、はじめは喜んでみていたその教材のDVDを観なくなってしまいました。
他に、好きなテレビ番組などができてしまい、その教材のDVDを半強制的に見せてしまい、その教材に対して嫌悪感を持つようになってしまいました。
親が英語教育に熱心になりすぎて、子供が嫌がってしまっては本末転倒です。 まずは英語に興味を持たせ、「一緒に楽しく取り組み、遊び感覚で楽しく学べる環境を与えられると良かったなぁ」と思います。
東京ディズニーランドでもよく見て、親しみがある、ディズニーキャラクターが英語を教えてくれるので、継続はできませんでしたが、導入の興味を持ってもらう事には成功しました。しかし、前述のとおり、この教材に嫌悪感を持たせてしまったのは、反省点です。
デメリットをいくつか挙げていますが、この点が一番避けなければいけない事だったと、実感しています。
セミリンガルになる可能性がある
セミリンガル (semi lingual) とは、複数言語で育った人が両方とも年齢相応の言語能力まで伸びていない状態のことを指します。
早期英語教育において、日本語の発達が十分でない段階で英語環境に長時間さらされることで、母語である日本語の語彙力や論理的思考力が育ちにくくなるリスクがあります。
特にインターナショナルスクールなど、英語中心の生活を送る子どもに見られる傾向で、家庭内での日本語の支援が不十分な場合に起こりやすいとされています。
テレビのバラエティー番組等を観ていると、外国人の日本人の両親を持つ人で、少し違和感のある日本語を話すタレントさんを見かけたりします。
ただ、「セミリンガル=一生の問題」ではなく、言語環境と支援次第で十分に回復可能です。日本語に最初は違和感があった、タレントさんもいつの間にか流暢で違和感なく日本語を話されています。(ただ、芸風としてその違和感をチャームポイントの様にいつまで経っても残している方はいます。)
ただし、日本の学校に通い、日常的に日本語を使う環境が整っていれば、セミリンガルになる可能性は低く、英語教育との両立も十分可能です。重要なのは、英語教育を進める際に、日本語の発達をしっかり支える事です。
結局、早期英語教育はどうなの?
早期英語教育のメリット・デメリット双方を解説してきましたが、「英語のまま理解する力」や「日本語に無い発音を聞き分け身につける力」は本当に貴重な力です。
そのためデメリットを理解してそれらをしっかりカバーしながらであれば、英語を始めるのは早いほうが良いと言えます。
早期英語教育を成功させるための3つのポイントを紹介します。
子供に楽しく英語を学ばせる
子供をバイリンガルに育てたいと思われる保護者の方は多くいらっしゃいます。
そのために家庭でできる事、それは何よりも子供に楽しく英語を学ばせるという事です。
せっかく熱心に英語教育をしても、子供は素直なのでつまらなければやめてしまいます。「英語は楽しい」というモチベーションを保つためにも英語が好きになる環境を与えてあげることです。例えば、英語音声のアニメや映像を利用するのも良いです。年齢や興味に合わせて、ディズニーなどの映画や乗り物や恐竜の番組を英語で見せるのも良いです。
一人で見せるのではなく、親子でいっしょに観て、感想を言い合ったり、歌をいっしょに歌ったりしてアウトプットをする事が楽しむ秘訣です。
日常的に英語を学べる場を用意する
前述したように、幼児期の子供は耳がよく、英語独自の音を聞き分けることに長けています。そのため英会話教室等でネイティブスピーカーの英語に触れる事も、発音やアクセントの習得にも効果的です。
一般的に、語学を身につけるまでには継続した学習が必要です。そのため少しでも長く英語の環境に浸るために、日常的に英語を学んで使える場を子供に提供することが大切です。
少しずつでも続ける
ただ、色々書いてきましたが、どれだけ早くに学習を開始しも、継続せずに止めてしまっては意味がありません。
イチロー選手が、
「小さなことを積み重ねることが、とんでもないところへ行くただひとつの道」
「少しずつ前に進んでいるという感覚は、人間としてすごく大事」
という事を言っていました。
彼は、特別な才能よりも、日々の積み重ねと準備の大切さを何度も強調していて、それが彼の記録にも表れたと言えます。その為、「継続は力なり」という言葉を彼が使っていなくても、その本質は彼の生き方そのものと言えると思います。

まとめ
世間で意見の分かれる早期英語教育についてメリット・デメリットの両方について見てきました。
賛否両論ありますが、しっかりと日本語の土台作りに配慮すれば、英語教育は早ければ早いほど得られるメリットは大きいです。子供は英語を驚くほどの早いスピードで吸収していきます。
その為、早く始めれば得られるメリットは大きいです。
ただし、継続が必要です。
止めてしまっては意味がなくなります。その為にも、学習に楽しさを見つけ、学習を細くとも長く続けられるようにしましょう。。(ここが一番大切な私達自身に言い聞かせています。)
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