スキーマと言語発達

ピアジェとバーレット 発達
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言葉を覚えるって、どういうこと?

子どもが言葉を覚えるとき、ただ単に「音」と「意味」を結びつけているわけではありません。そこには、世界の見方や概念の枠組み、つまり「スキーマ」が深く関わっています。

認知科学者・今井むつみさんは、言語の習得を「意味の世界を構築するプロセス」と捉えています。彼女の研究は、子どもがどのようにして言葉を通じて世界を理解し、またその理解をもとに新たな言葉を学んでいくのかを明らかにしてきました。

本記事では、「スキーマ」という概念を手がかりに、言語発達のプロセスをひもといてみます。

ちゃ
ちゃ

こんにちは。

「ちゃ」と申します。

娘が3人います。

言語聴覚士として働いています。

コミュニケーションについて沢山考えたいです。

子供達には英語を身につけて、世界中の人とコミュニケーションを楽しんでもらいたいです。

そのために、できる事を日々考えています。

少しでも背中を見てもらえるようにと、英検1級等を取得しました。

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スキーマ

「スキーマ」は、心理学者バートレット(Frederic Bartlett)が提唱したもので、彼は人間の記憶が単なる記録ではなく、スキーマに基づいて再構成されると考えました。

彼は、スキーマを「記憶や理解を導く構造」として捉えました。また、ピアジェ(Jean Piaget)は、「子どもが世界を理解するためにスキーマを発達させ、それを環境に合わせて調整していく(同化と調節)」と述べています。

つまり、スキーマは単なる知識の集まりではなく、経験を通して更新され、柔軟に変化していく「生きた知識の構造」なのです。

スキーマとは?⇨世界を理解する「枠組み」

「みなさんは日本語であれば、日本語で話されたり、書かれたりしているものは、当然理解できると思っているかもしれません。しかし、実際はスキーマがなければわからないことがほとんどです。たとえば私が、みなさんが何の知識も持たない専門用語を並べて、心理学の専門的な知識について講義したとします。心理学の事を知らない人であれば、ほとんど理解できないはずです。それは他の分野、たとえば科学や物理学、医学、あるいは歴史学等についても同じです。何かを理解するためには、スキーマを使って行間を埋めるということが不可欠なのです。」(今井むつみ著「人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学」より)

いわれてみれば、言葉を聞いたり話したりする時に、私たちは、辞書の定義を思い出すことはありませんが、言葉を“分かったつもり”で使っています。

例えば、「熊(クマ)をきちんと説明して」なんて言われたとすると、「茶色い大きな動物やん。怖い奴やん」ぐらいしか言えません。しかし、その言葉を「難しい言葉」と認識して使っている人はあまりいません。

改めて「スキーマ」とは、私たちが世界を理解し、経験を整理するための「枠組み」の様なものです。たとえば「レストラン」と聞けば、「メニューを見る」「注文する」「料理が運ばれる」といった一連の流れを思い浮かべる事ができます。これは、過去の経験から形成された「レストラン」というスキーマが働いているからです。

ピアジェやバートレットの理論との関係

心理学者バートレットは、スキーマを「記憶や理解を導く構造」として捉えました。また、ピアジェは、子どもが世界を理解するためにスキーマを発達させ、それを環境に合わせて調整していく(同化と調節)と述べています。

たとえば、子どもが初めて「犬」を見て「わんわん」と認識したとします。このとき、「四つ足で動く動物=わんわん」というスキーマが形成されます。しかし、次に猫を見たときにも「わんわん」と言ってしまうかもしれません。ここで大人が「これは猫だよ」と教えることで、子どもは「犬」と「猫」の違いに気づき、スキーマを修正していきます。これがピアジェの言う「同化」と「調節」のプロセスです。

この様に、スキーマは認知発達の中核をなす概念であり、言語の習得にも深く関わっているのです。

今井むつみさんの視点

今井むつみさんは、スキーマを「ある事柄についての知識の枠組み」としています。

「スキーマは『知識のシステム』ともいうべきものだが、多くの場合、もっていることを意識することがない。母語についてもっている知識もスキーマの一つで、ほとんどが意識されない。意識にのぼらずに、言語を使うときに勝手にアクセスし、使ってしまう。(中略)母語のことばの意味を説明してくださいと言われたときに、ことばで説明できる知識は、じつは氷山の一角で、ほとんどの知識は言語化できない。これは、自転車に乗れても、脳にどのような情報が記憶されているから自転車に乗れるのかが私たちには説明できないのと同じことだ。」(今井むつみ著「英語独習法」より)

この様に、スキーマは私たちが言語を使う際の「見えない土台」として機能しています。言葉を発するとき、私たちはいちいち意味や文法を意識しているわけではありません。それでも自然に適切な語を選び、文を組み立てられるのは、無意識のうちにスキーマが働いているからです。つまり、言語発達とは、単に語彙や文法を覚えることではなく、こうした「無意識の知識の枠組み」を育てていく過程でもあるのです。

子どもが言葉を覚えるときも、単語の意味を辞書的に覚えるのではなく、日常の経験や文脈の中で「これはこういうときに使うんだな」といった形でスキーマを構築していきます。たとえば、「りんご」という言葉を聞いたとき、赤くて丸くて甘い果物というだけでなく、「おやつの時間に食べるもの」「皮をむいて食べるもの」「お弁当に入っていることがあるもの」など、さまざまな知識が一緒に活性化されるのです。

子どもは日々の経験を通じて語の意味や使い方に関するスキーマを構築し、それを文脈に応じて柔軟に調整していきます。つまり、言語を学ぶとは、単に語彙を増やすことだけではなく、スキーマを豊かにし、洗練させていく営みなのです。

子どもが言葉を学ぶとき

「モノを表すことばを学習していくとき、子どもは最初の数か月は身近なものの名前を、一つひとつゆっくりと覚えていく。しかし数か月たち、覚えたことばがある程度たまると、子どもはことばはどのようなカテゴリーに対応づけられるのかというような、抽象的な知識を獲得する。そこからさらに、ひとつの事例と結びつけられたことばは、他のどの様な対象に使えるのか、というように考えを進め、言葉全般に適応できるパターンを抽出するようになる。そして、実際に、そのパターン(規則性)を初めて見る対象にもどんどん適用するようになるのである。すると、子どもが覚える言葉の数はそれまでと比べ物にならないほど増え、新しいことばの学習はどんどん加速していくのだ。」(今井むつみ著「ことばと思考」より)

一歳を過ぎ、二歳を迎えようとする時、私の子どももこの様に、爆発的に色々なことばをしゃべり出すタイミングがありました。「そんな言葉いつ覚えたの?」と不思議に思うような事もありました。そんな時、子どもは常にアンテナを張り、周りの大人たちの話す会話やテレビから聞こえてくる歌やことばに聞き耳を立てていることに気がつきました。

また、単に受動的に受け取るだけではなく、能動的に聴いた言葉を頭の中で整理し、「今聞いたことばは他のどの場面に当てはまるのか」や「そのことばはどのような使い方ができるのか」などと常に思考をめぐらせているのです。

次女が5歳ぐらいの時、お姉ちゃんと物の取り合いで、喧嘩をして負けたことがありました。

その時に、「お前なんてふとになれ!」と叫びました。

一瞬、何のことか分かりませんでしたが、その次に言った言葉で、みんな分かりました。

「お母さんみたいにふとになれ!」

なんとなく分かった方もおられると思いますが、「お母さんみたいに太ってしまえ!」と言いたかったようです。

(お母さんは心からは笑えていない様でしたが)周りは大笑いになりました。これは、今でも家族の中で語り草になっている話題のひとつです。

みんなに笑われた次女は、恥ずかしさと相まって、さらに怒ってしまいましたが、後々自身の中で、「何が変だったのか」や「なんと言うべきだったのか」という事を自身の中で反芻しながら、咀嚼していたと思います。

この様に、子供達は知っている言葉を使ってみて、常にスキーマの「同化と調整」を繰り返しています。

スキーマを通して、子どもの言葉の世界を見つめ直す

スキーマという視点を持つことで、子どもの言語発達は単なる「語彙の増加」ではなく、「意味の世界の拡張」であることが見えてきます。

子どもが言葉を通して世界をどう見ているのか、その「地図」を一緒にたどり、作り上げていくことが、言葉の力を育てる道なのです。

ただし、間違ってはいけないのが、親は「支える」だけです。

「子どもは母語を学習するとき、文法や語彙を親や先生に直接教えてもらうことはない。そもそも言語を知らない子どもに言語を直接教えることは不可能なのだ。子どもは耳に入ってくる一つひとつのことばの意味を自分で推測し、ことばを繋いで文を組み立てる規則(つまり、文法)を自分で見つけ出す。子どもが母語を学習するときに発揮する能力は、まさに『自分で問題を発見し、考え、解決策を自分で見つける』という『学習力』そのものである。」(今井むつみ著「学びとは何か」より)

この「自分で」という能動的で主体的な部分が大切で、そこを支えたり広げる手伝いをする事が大切なのです。

子どもは自分の力で世界を理解しようとし、その過程で言葉の意味を広げ、深めていきます。大人にできるのは、その探究心がのびのびと働く環境を整えることだけです。間違いも試行錯誤も、すべてがスキーマを豊かにする大切な経験です。子どもが自分のペースで「意味の世界」を築いていく姿を、温かく見守りたいものです。

「子どもが言語の学習によって得るものは、はかり知れないほど大きい。言語を学ぶことは、コミュニケーションの手段を得ることである。言語で互いの意思や気持ち、考えを伝え合うことができる能力は人間と動物を隔てる大きな違いである。しかし、言語が子どもにもたらすものは、単にコミュニケーションにとどまらない。子どもは言語を学ぶことで、それまでと違った認識を得る手段を得、思考の手段を得るのだ。」(今井むつみ著「ことばと思考」より)

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