語彙力は世界の見え方を変える ―― 子どもの理解力・思考力を育む言葉の力

女の子に読み聞かせをしているお母さん 発達
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語彙力がある子は、なぜ「理解力」も高いのか?

たとえば、親子で夕焼け空を見上げたとしましょう。空は茜色に染まり、雲の端が金色に輝いています。ある子は「きれいだね」と言い、もう一人の子は「空がオレンジとピンクに混ざって、雲のふちが光ってる!」と目を輝かせて言います。どちらも同じ空を見ているのに、感じ取っている世界の“解像度”がまるで違うように感じます。

この違いの背景にあるのが、「語彙力」です。

語彙力というと、「難しい言葉をたくさん知っていること」や「テストで高得点を取るための知識」といったイメージを持たれがちです。ただ、本当は、もっと根本的で、深い力なのです。語彙力とは、単に言葉の数ではなく、「世界をどう切り分け、どう理解するか」という“思考の道具”そのものなのです。

言葉を知っているからこそ、私たちは物事を区別し、比べ、意味づけることができるのです。(それだけではありませんが。)

語彙が豊かな子は、ただ言葉をたくさん知っているだけではありません。その言葉を使って、物事の違いに気づき、他者の気持ちを想像し、自分の考えを整理して伝える力を持っています。つまり、語彙力は「理解力」や「思考力」と深く結びついているのです。

では、語彙力はどのようにして育まれ、どのように思考や認知の発達に影響を与えるのでしょうか?そして、私たちは子どもの語彙力をどのように育てていけばよいのでしょうか?

この記事では、語彙力が子どもの理解力や思考力にどのように関係しているのかを、心理学や言語習得の視点から解説します。また、日常の中で語彙力を育むための具体的な関わり方についても紹介します。

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語彙力とは何か?――「言葉の数」ではなく「意味のネットワーク」

「語彙力」と聞くと、まず思い浮かぶのは「知っている単語の数」かもしれません。確かに、語彙の量は大切です。でも、それだけでは語彙力の本質を捉えたとは言えません。

たとえば、「犬」という言葉を知っていても、それが「動物の一種」であり、「猫とは違う特徴を持ち」「ペットとして飼われることが多い」など、他の言葉や概念とどうつながっているかを理解していなければ、深い意味で「犬」という語を使いこなしているとは言えません。

語彙力とは、単語を“点”として覚えることではなく、それらを“線”でつなぎ、意味のネットワークとして構築していく力です。

子どもが「りんご」という言葉を覚えるとき、それは単に「赤くて丸い果物」という特徴だけでなく、「果物」「食べ物」「甘い」「皮をむく」「ジュースになる」といった、さまざまな関連語と結びついていきます。こうしたネットワークが広がることで、子どもは「果物」というカテゴリーを理解し、やがて「食べ物」「植物」といったより抽象的な概念へとつなげていくのです。

この様に、語彙力とは「言葉を通して世界をどう構造化し、理解するか」という力でもあります。語彙が豊かになるということは、世界をより細かく、柔軟に、そして多角的に捉えられるようになるということになります。だからこそ、語彙力は思考力や理解力の土台になります。

語彙と認知の発達 ――「ことば」が世界の構造をつくる

子どもが世界を理解していく過程は、「ことばを覚えること」と切っても切り離せないようです。最初は「わんわん」「ブーブー」といった音や形に結びついた言葉から始まり、やがて「犬」「車」といった具体的な名詞を覚えていきます。これらは「基本レベル語」と呼ばれ、子どもが最初に身につける語彙の中心です。

この「基本レベル語」は、認知の発達において非常に重要な役割を果たします。たとえば「犬」という言葉を覚えることで、子どもは「犬」と「猫」や「馬」との違いを意識し始めます。つまり、言葉を通して、世界をカテゴリーに分けていく力が育っていくのです。

語彙の獲得は単なるラベル付けではなく、「概念の精緻化」や「抽象化」のプロセスと深く関わっています。子どもはまず、身近で具体的なものから言葉を覚え、それを元に「動物」「乗り物」「家具」といった上位カテゴリーを形成していきます。さらに、「哺乳類」「交通手段」「生活用品」といった抽象的な概念へと発展していったりもします。

このように、語彙の増加は、世界を階層的に構造化したり、カテゴリーに分けたりする力を育てます。言葉を通して、「似ているもの」「違うもの」「部分と全体」「原因と結果」といった関係性を理解できるようになります。

つまり、語彙の発達は、認知の地図を描くための道具を増やす事にもなるのです。

また、語彙が増えることで、子どもは自分の経験をより細かく、そして詳しく記述し、他者と共有できるようになります。「痛い」だけでなく「ズキズキする」「チクチクする」と言えるようになると、感覚の違いを伝えられるようになり、周囲の理解も深まります。これが自己理解や他者との関係性にも大きな影響を与えるのはたやすく想像できます。

語彙の発達は、単なる言語の問題ではなく、思考や感情、社会性の発達と密接に結びついています。次章では、語彙がどのように思考そのものを変えていくのか、具体的な事例を通して見ていきましょう。

語彙が思考を変える実例 ―― 知らない言葉=見えない世界

「語彙力が思考に影響を与える」なんて聞くと、少し抽象的に感じるかもしれません。しかし、実際には私たちの身の回りにその例はたくさんあります。ここでは、色彩・感情・身体感覚という3つの領域から、語彙が世界の“見え方”をどう変えるかを見てみましょう。

まずは色の認識。

日本語では「青」と「緑」は別の色として区別されます。ただ、言語によってはこの2色をひとつの語で表すものもあります。

それとは逆に、ロシア語では「青」の濃淡に関して明確な語彙の区別があり、青の濃淡を素早く見分ける能力が高いという研究もあります。つまり、語彙があることで、色の違いに“気づける”ようになるのです。

逆に言えば、語彙がなければ、その違いは認識されにくくなることもあります。

次に感情についてです。

「悲しい」「怒っている」だけでなく、「もどかしい」「切ない」「悔しい」など、感情を細かく表す語彙を持つことで、自分の気持ちをより正確に自身で理解し、他者に解像度高く伝えることができます。

語彙が豊かであればあるほど、感情の“輪郭”がはっきりし、自己理解も深まるのです。これは、子どものメンタルヘルスや対人関係にも大きく関わってきます。

最後に、動作語と身体感覚です。

たとえば「走る」「跳ねる」「滑る」「登る」など、身体の動きを表す語彙が増えることで、子どもは自分の身体の使い方や感覚をより細かく意識できるようになります。

これは運動能力の発達だけでなく、空間認識や注意力にも影響を与えると言われています。

これらの例からわかるのは、「語彙があるからこそ、違いに気づき、意味づけができる」ということです。

語彙は、単なるラベルではなく、世界を“切り分けるナイフ”のようなものなのです。知らない言葉は、見えない世界や気付かない世界に成り得ます。

逆に言えば、語彙を増やすことで、世界の解像度が上がり、思考の幅も広がっていくのです。

語彙力を育てるには?

語彙力が思考や理解、自己表現の土台になるとすれば、子どもの語彙をどう育てていくかは、親や教育者にとって大きな関心事です。

しかし、「難しい言葉をたくさん教えればいい」という単純な話ではありません。

また、語彙は、単語帳で丸暗記するよりも、日常の中で“意味のある文脈”とともに出会うことで、深く根づいていくのです。

まず効果的なのが、読み聞かせ。絵本や物語には、日常会話ではあまり使われない語彙や表現がたくさん詰まっています。たとえば「しとしと」「ざあざあ」といった擬音語や、「うっとり」「わくわく」といった感情語は、絵本の中でこそ自然に出会える言葉です。しかも、絵やストーリーの流れと一緒に体験することで、言葉の意味がより深く理解され、記憶に残りやすくなります。

特に、口語で接する言葉だけでなく、文字という媒体を通して出会う言葉は普段とは違う印象をその語彙に与えてくれます。

私自身、幼少期に母親に本の読み聞かせを沢山してもらっていました。

成長するにつれて、反抗的になり、本を読んでもらう事が恥ずかしいと思い、拒絶し、その勢いで、勉強もしなくなりました。

ただ、高校に行きだした時に、小説を読む事が好きな友達がいて、その彼に感化され、小説を読むようになりました。その時まで、教科書はもちろん、小説など文字ばかり書かれている本を読む習慣がなかったのですが、「小説を読みたいな」と思った時すぐに、小説など本を読む習慣を作ることができました。

これは「幼少期に母親が沢山、本の読み聞かせをしてくれていたおかげだ」と、実感しました。

そして、この頃から低かった学業成績も上がり始めました。

そして、やっぱり大切なのが、日常の対話です。子どもが何かを話したとき、「へえ、どうしてそう思ったの?」と問い返してみたりします。

こうしたやりとりは、子どもが自分の考えを言葉にする練習になりますし、新しい語彙を使うチャンスにもなります。

そして、その様なやり取りを大人が楽しむ事が一番大切だと思います。(絶対、「楽しい!」と思う気持ちは子供に伝わります。)

また、大人が少しだけ語彙のレベルを上げて話すことで、子どもは自然とその言葉を吸収していきます。

この他、子どもの言葉を「正す」のではなく、「広げる」姿勢も大切です。たとえば子どもが「大きい犬」と言ったら、「そうだね、大きくてふさふさした犬だね」と返してみたりします。こうした“言い換え”や“言葉の追加”は、子どもの語彙ネットワークを広げる手助けになります。

こうした小さな積み重ねが、語彙の土台を豊かにしていきます。

語彙力は、短期間で一気に伸びるものではありません。日々の暮らしの中で「ことばに出会う機会」を増やし、「意味のある文脈」で使うことを意識すれば、確実に育っていきます。そしてその積み重ねが、子どもの思考力や共感力、創造力を支える大きな力となるのです。

そして、子どもに限った事ではなく、大人である私達も様々な認知の土台になる語彙力を自身で育むことを大切にし、充実した生活を送る糧とする努力はやっても損はないと思います。

また、その様な姿勢はその背中を観る子供にとって良い影響が出るに違いありません。

まとめ ―― 語彙力は「世界の見え方」を形づくる力

語彙力とは、単なる知識の量ではありません。それは、世界をどう切り分け、どう理解し、どう他者と共有するかという「思考の道具」であり、「認知のレンズ」です。語彙が豊かになることで、子どもは世界をより細かく、柔軟に、そして深く捉えられるようになります。

新しい語彙を覚えることは、既存の知識と新しい概念を結びつけ、思考の地図を広げていくことになります。語彙の発達は、認知の発達そのものと深く結びついているのです。

「色の違いに気づく力」、「感情を言葉にする力」、そして「身体の感覚を表現する力」等はすべて、語彙によって支えられています。語彙がなければ気付かない世界があり、語彙があることで初めて気づけることがあります。

そして語彙力は、日常の中で育てることができます。「読み聞かせ」、「対話」、「言葉の言い換え」こうした積み重ねが、子どもの思考力・共感力・創造力の土台となるのです。

語彙を育てることは、単に言葉を増やすことではなく、「世界の解像度」を上げることです。子どもも大人も、語彙を広げることで、より豊かに感じ、深く考え、丁寧に伝える力を育んでいけます。

ことばを育てることは、心と知性を育てること。その営みは、私たちの世界の見え方そのものを変えていくのです。

参考図書 『言語の本質』 今井むつみ 著(中公新書)

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