「君たちったら何でもかんでも
分類、区別、ジャンル分けしたがる
ヒトはなぜか分類したがる習性があるとかないとか…
陰キャ陽キャ
君たちは分類しないとどうにも落ち着かない …」
これはSEKAI NO OWARI(世界の終わり)の「Habit」の歌い出しです。
現代社会の“型にはめたがる”傾向や、他者をラベル付けすることへの風刺が込められた楽曲です。
この歌では区別したり、分類したりする事を「Bad Habit(悪い習性)」という風に歌っています。
事実、この様に「女性(男性)だから」、や「外国人(~人)だから」等その中にも色々な人がいるのにひとくくりにしてしまう事が無慈悲な差別につながる事もあります。
しかし、私たちはなぜ分類してしまうのでしょうか? 実は、言葉を学ぶことそのものが、世界をカテゴリー化することと深く関係しています。 本記事では、慶應義塾大学名誉教授・今井むつみ氏の理論をもとに、言葉が私たちの認知にどのような影響を与えるのかを探ります。

こんにちは。
「ちゃ」と申します。
娘が3人います。
言語聴覚士として働いています。
コミュニケーションについて沢山考えたいです。
子供達には英語を身につけて、世界中の人とコミュニケーションを楽しんでもらいたいです。
そのために、できる事を日々考えています。
少しでも背中を見てもらえるようにと、英検1級等を取得しました。
どうして分類したり区別したりしてしまうの?
私たちは毎日、目にしたり耳にしたりする世界をそのまま理解しているわけではありません。
人間は、世界を「カテゴリー(まとまり)」に分けて理解することでスムーズに他者とコミュニケーションを取り、生きることができています。
「言葉を学ぶとは、世界をカテゴリーとして構造化していくこと」
という考え方を慶應義塾大学 名誉教授・今井むつみ先生一貫して示されています。
言葉がどのように世界をカテゴライズするのかを、5つの視点から紹介します。
聴覚的カテゴリー
私達は、音をどの様に聞き分けているのでしょうか?
赤ちゃんは最初、世界中のあらゆる言語の音を聞き分けられます。
しかし生後6~12か月ごろから、自分が聞いている言語に必要な音だけをカテゴリー化して認識するようになります。
例えば、 「ra」と「la」の違いが日本語にはほとんどありません。会話の中で「randoseru」を「landoselu」と発音したところで、あまり違和感なく聞き取られ、それによって会話が停滞する事はありません。
しかし、英語では「L」の音と「R」の発音をきちんと分ける為、「light(光)」を「right(右)」と発音してしまうと、文脈によっては「???」と聞き取る側に思わせ、会話が停滞してしまう事があります。
このように、使用する言語によって、どの音が重要な違いとして認識されるかが変わるのです。
〔r〕と〔l〕の様な音は、二つの音の間の物理的にはっきりとしたギャップによって分けられているわけではなく、連続的なものだ。しかし、これらの子音を区別する言語の母語話者は、実際にない境界線を「知覚」する。例えば、英語で〔r〕と〔l〕と発音される音の境界あたりの音を人工的につくり、少しずつ変化させていく。そのとき、英語話者はそれらの音を〔r〕と〔l〕の混じった音、とか中間の音、の様に認識しない。ある地点までははっきりと〔r〕と認識し、次の地点からはっきりと〔l〕と認識する。つまり、〔r〕と〔l〕ははっきりと「別のカテゴリー」として区別して知覚され、実際にはない境界線が話者によって作り出されるのだ。(今井むつみ著、『ことばと思考』)
| 音の変化 | 英語話者の認識 | 日本語話者の認識 |
|---|---|---|
| 〔r〕寄りの音 | 「r」と認識 | 「ラ行」として違和感なく受け入れる |
| 中間音 | 境界で「r」→「l」に切り替わる | ほぼ同じ音として認識 |
| 〔l〕寄りの音 | 「l」と認識 | 「ラ行」として違和感なく受け入れる |
色のカテゴリー
日本語では「青」と「緑」に分けますが、青信号は「green」なのに「青」と言います。また、新緑の季節の山を見て、「青々と茂った木々」等と言います。
英語では「blue」と「green」をよりはっきり区別します。その為、日本語で言う「青信号」を英語では「green light(緑信号)」と言います。
英語と日本語だけでもこれだけはっきりと差がありますが世界を見渡すと、もっと差がある言語が存在するようです。
例えば、世界には色を「明るい」か「暗い」かでしか分けない言語もあるそうです。
つまり同じ世界で物を見ていても、言語によって色の切り分け方(カテゴリー)が違うのです。
| 色 | 日本語 | 英語 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 青信号 | 青 | Green | 日本語では「青信号」と呼ぶが、英語では「green light」 |
| 新緑 | 青々とした木々 | Green trees | 「青々」と表現する文化的背景 |
階層のカテゴリー
言葉は、もののカテゴリーを階層的に分けたりもします。
例えば「犬」と「動物」と「チワワ」はどう違うでしょうか?
「動物」は上位カテゴリーで「犬」基本レベル、そして「チワワ」が下位カテゴリーになります。
これは、他の事にもあてはまり、「机」を例に挙げると、「家具」が上位カテゴリーで「机」が基本レベル、そして「学習机」が下位カテゴリーです。
子どもが最初に覚えるのは 基本レベル(犬・車・机など) です。
これは私達にとって「ひと目でわかりやすく、使い勝手が良いカテゴリー」だからです。
言葉を覚えるとは、
こうしたカテゴリーの階層を育てていくことでもあります。
言葉を覚える事で、自然に「レベル」の様な階層を作り出しているのです。。
動きのカテゴリー
「走る」や「歩く」、そして「滑る」 等の動作も分類しています。
動作語は、子どもにとっては難しいカテゴリーです。
たとえば「走る」と一言で言っても…、
どれくらい速いと「走る」と言えるのでしょうか?
縄跳びを回しながら走るのは「走る」と言うべきなのか、「跳ぶ」と言うべきなのか迷う事もあると思います。また、犬が走るのと人が走るのは同じカテゴリーでもいいのでしょうか?
動詞は文脈依存度が高い(状況に強く結びついている)ため習得が難しいと言われています。
位置のカテゴリー
位置を表す言葉(前・後・左・右・上・下)は、
実は言語によって大きくカテゴリーが異なります。
日本語で「右」「左」と言うとき、
私(話し手)を基準にしますが、世界には東西南北でしか位置を表さない言語もあります。
今井先生は、
位置をどう捉えるかは、その言語と文化の世界観に深く結びついている と説明しています。
私達が位置関係を理解するのも、
視覚的経験 × 言葉の指示 × 文化的な世界観
の三つが重なったときです。
| 言語 | 位置の基準 | 例 |
|---|---|---|
| 日本語 | 話し手中心 | 「右に曲がって」=話し手の右 |
| グア語(オーストラリア)など | 方位中心 | 「南に曲がって」=絶対方位で指示 |
まとめ
私達は座る物を「椅子」と呼びますが、それは勉強をする時に家の自身の部屋で使う「椅子」もダイニングにある「椅子」もアウトドアで使うパイプ椅子も全て「椅子」とひとくくりにします。
この様な事を考えると、言葉を理解し、身につける事が「区別」したり、「分類」したりするきっかけを作ってしまっていると言ってしまいそうになります。
しかし、言葉は単なるラベルではありません。私たちが世界をどのように切り分け、どのように理解するか、その「認知の枠組み(カテゴリー)」そのものなのです。
つまり、言葉を学ぶ事は、世界を構造化することです。そして、カテゴリーを育てることが認知の発達に不可欠なようです。
「『 語彙力は世界の見え方そのもの』を変えるという事」とも言えそうです。
子どもも大人も、新しい言葉を学ぶたびに「世界の分け方」が増え、世界がより細やかで、多様なものとして見えていくのです。


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