「うちの子、言葉が少ない…」って不安になってませんか?実は“語彙の量”より大事な力があるんです!
子どもの言語力を「語彙の量」だけで判断するのはちょっと早計かもしれません。実は、日本語を学ぶ乳幼児たちは、英語児よりも語彙数が少ない傾向がありますが、新しい語を正確に学ぶ力=推論力はとても高いそうです。

こんにちは。
「ちゃ」と申します。
娘が3人います。
言語聴覚士として働いています。
コミュニケーションについて沢山考えたいです。
子供達には英語を身につけて、世界中の人とコミュニケーションを楽しんでもらいたいです。
そのために、できる事を日々考えています。
少しでも背中を見てもらえるようにと、英検1級等を取得しました。
「語彙が少ない=言語力が低い」ではない?──日本語児の語彙発達と“アブダクション”の力
「うちの子、他の子に比べて言葉の数が少ない気がする…」
そんな不安を感じたことはありませんか?でも、語彙の“量”だけで言語力を測るのは、ちょっと早計かもしれません。
NTTコミュニケーション科学基礎研究所の研究によると、日本語を習得する子どもは、英語児に比べて発話できる語彙数が少ない傾向があるものの、新しい語を正確に学習する能力はむしろ早期から発達しているとしています。
これは、今井むつみさんが提唱している「アブダクション推論」と深く関係しているのではないでしょうか。
※アブダクション推論はもともと哲学者チャールズ・サンダース・パースによって提唱された概念であり、今井むつみさんはこの推論を言語習得や認知発達の文脈に応用・展開している。
アブダクション推論とは?
言語習得とは単なる「語の暗記」ではなく、意味と語を結びつける推論的なプロセスです。子どもは、限られた情報の中から「この言葉はこの意味かもしれない」と仮説を立て、それを検証しながら語彙を獲得していきます。これが「アブダクション(仮説形成推論)」です。
つまり
- 限られた情報から意味を推測する力
- 「たぶんこういうこと?」と仮説を立てる
- 子どもが自然に言葉を覚えるときに使っている
と言う事です
この言葉を知って、私の頭に真っ先に思い浮かんだのは、「事故る」という言葉です。
小学生ぐらいの時からこの言葉を耳にするようになったと思うのですが、はじめからあまり違和感無く使っていました。
ただ、中学生の時に、国語の先生が『変な言葉』としてこの「事故る」を取り上げた事がありました。それは文法的に間違いで、名詞を無理矢理動詞にしてしまっていて、(辞書に)そんな言葉は載ってません。正しくは「事故を起こす」や「事故にあう」ということを改めて教えてもらいました。
よくよく考えると、その通りで、その時その言葉にはじめて違和感を覚えました。
この様に誰に教えてもらう事なく、自分たちでアブダクション推論を通して言葉を考えると、この様な誤用も違和感なく広まっています。
これはあまり良くない例でしたが、自然にこの様な独自に推論する力を使い、検証しながら私達は言葉を覚えています。
これは、少ないヒントから意味を考えて、仮説(かせつ)を立てる力で、言葉を覚える=暗記じゃなくて、意味を考える=推理をしながら言葉を培っているということです。
つまり、語彙の「量」よりも、ことばと意味を対応づける力=推論力こそが、言語習得の本質なのです。
日本語児は「意味の推論」に長けている?
NTTの研究では、日本語児と英語児に新しい動詞を提示し、どのように意味を理解するかを調べました。その結果、日本語児は動詞を“動作”に正確に対応づけることができたのに対し、英語児は動作と物体の両方に曖昧に対応づけてしまう傾向が見られました。
これは、日本語児が語の意味を推論する力、つまりアブダクション推論の精度が高いことを示唆しています。
なぜ語彙数が少なくなるのか?
では、なぜ日本語児は語彙数が少ないのでしょうか?その鍵は、親の語りかけスタイルにあります。
日本語の母親は「わんわん」「犬さん」「ぱくぱく」など、同じ対象に複数の語を使う傾向があります。一方、英語の母親は「dog」「eat」など、一貫した語彙で対象を説明する傾向が強いのです。
この違いが、語と対象の対応関係の明瞭さに影響し、結果として語彙の定着スピードに差が出ている可能性があります。

「語彙の量」より「語彙の質」に注目する視点
このように考えると、語彙の“量”だけで子どもの言語力を判断することの危うさが見えてきます。日本語児は、語彙数は少なくても、語と対象を正確に対応づける力=意味を推論する力を早くから持っている。
教育への応用──親の語りかけが“推論力”を育てる
この研究は、親の語りかけが子どものアブダクション推論にどう影響するかを考えるヒントにもなります。一貫性のある語りかけは、語と意味の対応関係を明瞭にし、推論の精度を高める可能性があります。一方で、日本語の育児語のように情緒的な語りかけは、子どもの心の発達や感性にポジティブな影響を与えるかもしれません。
つまり、語彙の定着と推論力の育成、そして情緒的なつながりのバランスが、言語教育の鍵になるのです。
最後に(少し気になった事)
「知ったかぶり」って、ちょっとイタい感じの言葉ですが、実はアブダクション推論の「入り口」として見ると、案外ポジティブな面もあるようです。限られた情報から「たぶんこういう事だろう」と仮説を立てて話す姿勢は、知的なチャレンジとも言えます。もちろん、検証せずに断定してしまうと誤解のもとになりますが、最初の一歩として「わかった気になる」ことは、学びの動機づけにもなるようです。子どもが新しい言葉を使ってみるときも、ちょっとした「知ったかぶり」が自信につながることがあり、その挑戦が、成功体験にもなったりして、コミュニケーションのモチベーションにも繋がります。大切なのは、その仮説をどう育てていくか。知ったかぶりは、推論の芽。育て方次第で、立派な知性に育つのだと思います。

まとめ:語彙数に一喜一憂しないで
語彙の数が少ないからといって、言語力が低いとは限りません。むしろ、意味を推論する力=アブダクション推論の精度こそが、言語習得の本質です。
親の語りかけや教育のあり方を見直すことで、子どもの“ことばの力”をもっと豊かに育てられるかもしれません。
改めて、「アブダクション推論」は、限られた情報から仮説を立てて意味を推測する力です。「もしかしてこういうこと?」と考える知的な柔軟性という事です。
「柔軟性」と書くとポジティブなイメージになりますが、ふと、「『知ったかぶり』の根源では?」とも思いました。
☆語彙の量だけで子どもの言語力を判断しない
☆意味を推測する力=アブダクション推論がカギ
☆親の語りかけがその力を育てる
☆「知ったかぶり」は学びの芽。育て方次第で知性に!
参考資料 ことばの発達,日本語と英語で何が違う? – NTT技術ジャーナル
参考図書 『言語の本質』 今井むつみ 著(中公新書)



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