漢字は必要か?
パソコンやタブレット、そしてスマホを使った文字入力が一般的になり、手書きで文字(漢字)を書く事が少なくなりました。それに加えて、英語等の外国語表記が増えた現在、漢字を子供たちが勉強する意味合いが少なくなっているように思えます。しかし、私達日本人にとって、この漢字を使用する事は、長年培った文化なので、まだまだ蔑(ないがし)ろにできる物ではないと直感的に思っています。
今回はその漢字を勉強する事に関して、どのような肯定要素があるか、考えていきます。
広く使われている漢字
黄河文明で誕生した漢字は、四大文明で使用された古代文字で、唯一現在も使用されている文字体系です。また、10万にも上るその数は世界で最も種類が多い文字体系でもあります。そんな漢字は日本に、5世紀頃に仏教と共に入ってきたと言われています。
現代では中国語、日本語、そして韓国語とベトナム語の一部の記述で使用されていて、世界で15億人に使用されています。ちなみに、一番多く使用されているローマ字は約50億人に使用されています。(漢字 – Wikipedia)
以前、台湾人の友人が母国の家族に宛てて、漢字を使って書いた手紙を読ましてもらうと、何が書いてあるか少し分かりました。バスや電車で見る案内で中国人旅行者に向けて掲示されているものを読んでみると、少し理解ができるのと似ています。
この様に外国の言葉や文化を明確ではないにしても、分かる(感じ取れる)というのは、安易に放棄できない、日本語の良い要素の1つだと思います。
失語症
この「失語症」という言葉はあまり聞き慣れない方も多いかも知れません。脳出血や脳梗塞による脳血管障害等の脳の疾患で、いったん獲得された言語機能が中枢神経系の損傷によって言語の理解と表出に障害をきたした状態です。失語症の定義の中に、言語の表出と理解に関わる全ての言語モダリティ(読む、聞く、話す、書く)が障害された状態というものがあります。(失語症 – Wikipedia)つまり、言語機能の「読んで理解する」、「聞いて理解する」、「考えを話す」、そして「考えを書く」の全てにおいて、多かれ少なかれ、支障をきたしている状態だという事です。
そのような障害ですが、人によって、症状はバラバラです。脳にある病変の部位の違いで、(話す事が苦手になる方や聞いて理解する事が困難になる方等)出現する症状は変わってきます。そんな失語症の方の言語セラピーを行っていた以前の病院では、様々な患者さんに出会いました。患者さん中に、平仮名は読めないのに、難しいはずの漢字は読めるという人がおられました。また、他の失語症の患者さんで、平仮名の「か」は書けないのに「金」は書けるという患者さんもおられました。その方は読む方も、簡単な漢字は読めても、平仮名が読めないというところがありました(読める平仮名もありました)。
医歯薬出版株式会社から出ている失語症学という本に「漢字語処理と仮名語処理に脳の特定な部位が別々に対応しているという解釈の余地はない」と書いてあり、臨床的にも「漢字だから読めない(書けない)」とか「平仮名だから読めない(書けない)」という事ではなく、「漢字も仮名も読めなかったり、書けなかったりするものがある」という様な症状の患者さんが多くおられた印象です。
また、同じ様な脳の部位に病変があっても、病前に文字を読んだり書いたりする事が多かったかどうかで、失語症の症状が重かったり軽かったりする(「読書好きだった人は読字障害が軽い事が多い」等)事は、実感としてありました。ただ、漢字は平仮名や片仮名とは違い、色々な意味や構成の要素があったり、人(職業や学歴、年齢、性別、そして生活環境)によって難易度が変わるため、定量的な検査が困難です。そのため、一般化できる漢字と仮名の乖離に関しての結論は出ていません。
これは私の感覚ですが、象形文字の流れがある事もあり、漢字は色々な物事を形で表している事があります。その様な物事を言葉として捉えるだけではなく、形(イメージ)としてとらえている側面がある事から、脳の特定の部分だけではなく、視覚的なイメージを司る部分等、様々な部分を介して情報処理している事で、脳血管障害である部分だけに障害が起こっても、他の部分がその情報処理機能を補えることがあるのかと思います。
この様に考えると、普段から多様な文字(平仮名は文字数が限られているので、沢山の漢字)にできるだけ触れる事は、脳を活性化する意味でも良い事だと思います。
石井勲式漢字教育
これは教育学博士の石井勲氏が提唱された教育法で、子供の言葉の能力を最大限引き出す様に考えられた教育法です(石井式漢字教育)。この方法は幼児期から漢字を学ぶ事の大切さを提唱されています。
ホームページには「幼少期だからこそ漢字教育が必要なのです。漢字は一見複雑そうですが、それゆえに識別しやすいのです。そして具体的な意味や内容を表していますから、幼児には絵を見るのと同じように理解されます。つまり、『目』で理解する言葉(視覚言語)なのです。一方、ひらがなやカタカナは抽象的で一字一字には何の意味もありません。つまり耳で理解する言語です。」とあります。
この様に書かれている通り、(「失語症」の項目で書いた事と重なりますが)漢字はイメージを内包した文字なので、それを読んだり書いたりする事で、色々なイメージを頭に描いたりする事ができる文字だと思います。これは、特に子供の平仮名ばかりの本を読んだり、英語の文章を読む練習をしていると、実感できます。特に、漢字をしっかり習得し、日本人の成人された方であれば、実感できる事だと思います。
英語の文章との比較
私の知り合いで、日本人の両親がいるけども、人生のほとんどの時間をアメリカで過ごしている方がいます。小学校から大学までアメリカの学校に通われていたので、教科書をはじめとする本の活字を読むのは、英語での経験の方が多い方です。そんな彼も「アルファベットによる英語の単調なイメージが強い英語の文章と違い、日本語のそれは漢字と仮名があり、文章にメリハリがある。特に漢字が含まれていると、視覚的に塊としてとらえやすく、読んで理解しやすい。」と言っていました。
この様な事ひとつ取っても、私達はひそかに漢字の恩恵を受けている様です。
まとめ
漢字は古代から広く使われ続けている事、色々な要素から成り立っている事で頭を活性化する事、文章のイメージを受け取りやすい事、そしてそのため読みやすい事が漢字を読んだり書いたりする事のメリットに挙げる事ができます。裏を返せば、様々なメリットがあるから、広く使われ続けられているという事だと思います、
社会に出ると、紙とペンを使って、人前で会議の議事録を書かなくてはいけない場面や、メモを残したりしなければいけない場面に遭遇する事があります。その様な時、できるだけ他人に伝わりやすいように、漢字を使って伝える姿勢は大切にすべきだと思います。特に、スマホやパソコンの変換機能に慣れている私達の子供達に、漢字を意識して学習する事の大切さを伝えていきたいです。
以上の観点から、このサイトでは漢字を使用する事を大切にしたいと思っています。それはもちろん、伝わる(える)事を大切にするという事ですが、私自身の伝える力の向上のためにも必要な事だと思っています。
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